「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第58回研究会<2013/1/25>
黄 蘊氏
東南アジアの華人教団と扶鸞信仰: 徳教の拡大とネットワーク化

第58回「東南アジアの社会と文化研究会」研究会を下記の通り開催します。オープンな研究会ですので、自由にご参加ください。事前の参加予約は必要ありません。

●日時

2013年1月25日(金)16:00~18:00(15:30開場)

●場所

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
稲盛財団記念館小会議室Ⅰ

●話題提供者

 黄 蘊氏(京都大学GCOEプログラム「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」研究員)

●発表要旨

 徳教は1939年に中国の潮州地方において、扶鸞(フラン)という託宣と慈善を中心活動とする宗教慈善結社としてスタートしたものである。第二次世界大戦後、潮州系商人によって前後にして香港、タイ、シンガポール、マレーシアに伝えられ、そこから徐々に教団としての形を整え始め、また東南アジアというコンテクストの中で新たな発展の段階を迎えた。上記三ヶ国では、徳教団体は、扶鸞を介した神からのメッセージの獲得や慈善の展開を主な活動としており、組織性を有しているが宗教的教化制度を含む完全なる宗教制度を確立していない。徳教のこうした展開は、移民社会の社会的・宗教的環境や、その担い手となる人々の性格と大きく関係している。
 本書はマレーシア、シンガポール、タイで展開を続けてきた華人教団徳教とその信者である人々についての調査に基づき、移民の間にみられる出自文化の宗教信仰との関わりとその再編、生活への関係付けについて描いたモノグラフである。同時に、個人のスピリチュアリティの探求を中国系の民間宗教の事例を通して分析し、宗教、スピリチュアリティと近代性、またはエスニシティとの相互関係についても議論を展開した。
 本書はそのなかで特に潮州系を中心とする商人層と徳教との相互関係について具体的に考察した。具体的に、人間と神との交換システム、互酬的な関係への分析を通して、特定の社会階層と特定の教団とのダイナミックな相互関係、その結果としての教団の性格形成のプロセスの解明をめざした。
 なお、マレーシア、シンガポール、タイの三ヶ国における徳教展開の共通性とそれぞれの独自性について考察を行ったほか、国境を越えた徳教のネットワーク化の現象、近年の徳教の布教とトランスナショナルな拡大についても議論を展開した。
 本発表では、2011年12月刊行の拙著の内容について報告するとともに、刊行後に新たに思ったことについても述べさせていただく。

[研究会世話人/事務局]
片岡 樹 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
kataoka(at)asafas.kyoto-u.ac.jp