「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第78回研究会<2017/5/12>
杉島 敬志氏
インドネシア・中部フローレスにおける未婚の女性首長をめぐる比較研究
―オーストロネシア研究の視点から


第78回「東南アジアの社会と文化研究会」を下記の通り開催します。
今回は、杉島敬志先生にインドネシアでの最新の研究成果についてお話しいただきます。


オープンな研究会ですので、ぜひお気軽にご参集ください。
新入生の参加も歓迎します。
事前登録等の手続きは必要ありません。
また、研究会後には懇親会を予定しております。

●日時

2017年5月12日(金)16:00~18:00(15:30開場)

●場所

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
総合研究2号館4階 大会議室(AA447)
(京都市左京区吉田本町京都大学本部構内百万遍のすぐ近くです。)

会場についてはこちらもご参照ください。
http://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/about/access

地図が二枚ありますが、下の方の地図(「本部構内」)です。

●話題提供者

杉島 敬志 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授)

●発表題目

インドネシア・中部フローレスにおける未婚の女性首長をめぐる比較研究
―オーストロネシア研究の視点から

●発表要旨

 本発表は、インドネシアのフローレス島中部(以下「中部フローレス」)のリセ首長国にひとりいる未婚の女性首長ハゴワウォをめぐる比較研究である。
 はじめに、中部フローレスのリオ語を話す人々の社会生活の全般を俯瞰しながら、発表者が1983年から調査をつづけているリセ首長国の政体と親族の基本構成を概観するとともに、ハゴワウォとはどのような存在なのかを紹介する。
 つぎに、リセ首長国と比較する観点から、中部フローレスの他の首長国の起源神話と首長制についてのべる。未婚の女性首長は、中部フローレスのすべての首長国にいるわけではない。未婚の女性首長がいない場合、それが何によって代替されているかを明にすることが、ここでの大きな目的である。
 こうした比較から得られる結論は、様々なバリエーションはあるが、結婚によって分離されていない兄弟姉妹の関係が、首長国における人々の生活を成り立たせる、その根幹をなしているということである。これは首長国という政体にかかわる事象である。他方、親族の領域では、結婚によって分離されていない未婚の姉妹は、未婚の母にせよ、一度も結婚したことのない女性にせよ、特別な地位を与えられることもなければ、祖先祭祀に関わることもない。これは未婚の女性首長が、神々と近接する位置におかれたり、神々への供物を料理するなどの役割を担うことと対照的である。
 親族の領域では結婚によって分離されるべき兄弟姉妹の関係が、政体では未分離な状態におかれ、そこに政体の根幹を求める事象は、中部フローレスにかぎらず、オーストロネシア諸語が話されるアジア太平洋地域の方々から報告されている。
 中部フローレスでの調査をつづけ、オーストロネシア諸族の文献を読み進めるうちに、発表者は、親族と政体を区別し、前者のなかでは例外的なものとして位置づけざるをえない未分離な兄弟姉妹を後者のなかに定位させることで、多様ではあるが、政体と関連するひとまとまりの事象として理解できる事例が数多くあることを意識するようになった。この思いは、フローレス島から遠く離れた地域で、未婚の女性首長や婿入り婚をおこなった女性首長の兄弟が政体における最高位の首長になる等の、中部フローレスの事例とよく似た事情と出会うたびに強くなった。また、こうした比較研究を進めるなかで、親族と政体を区別してこなかったオーストロネシア諸族の比較研究や、人間の生活を単純で一元的な原理に還元しがちな人類学研究を批判的に考えるようにもなった。
 今回の発表は『アジア・アフリカ地域研究』第16巻2号(2017年3月刊)に掲載された同題の論文にもとづくものであり、中部フローレスの事例をおもに扱うが、今後は比較研究の範囲を台湾のオーストロネシア系在来民、ポリネシア、東南アジア島嶼中部などに広げて比較研究を進めていきたいと考えている。

●2017年度世話人代表・研究会事務局

細田尚美
hosoda(at)asafas.kyoto-u.ac.jp
加藤裕美
kato(at)cseas.kyoto-u.ac.jp
中谷知樹(院生代表)
nakatani(at)asafas.kyoto-u.ac.jp

●「東南アジアの社会と文化研究会」のウェブサイトには、今回の研究会の案内、発表要旨、研究発表に関わる写真が掲載されていますので、ご覧ください。

http://www.chiiki.cseas.kyoto-u.ac.jp/syakai-bunka/