「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第61回研究会<2013/10/11>
森田敦郎氏
静脈:流れる物質、生成する関係、バンコク拡大首都圏におけるマテリアリティと景観の形成

第61回「東南アジアの社会と文化研究会」研究会を下記の通り開催します。オープンな研究会ですので、自由にご参加ください。事前の参加予約は必要ありません。

●日時

2013年10月11日(金)16:00~18:00(15:30開場)

●場所

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
京都大学稲盛財団記念館 3階中会議室
※今回の会場は、百万遍ではなく川端通り沿いのキャンパスになります。
詳しくは、こちらをご参照ください。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_m.htm

●話題提供者

 森田敦郎氏 (大阪大学人間科学研究科)

●発表要旨

配布資料

 1990年、兵庫県警は香川県小豆郡に属する小さな島、豊島で産業廃棄物不法投 棄に関する史上最大規模の強制捜査を実施した。摘発された産廃業者は廃棄自動 車の解体から生じた膨大な有害廃棄物の野焼きと違法投棄を15年にわたって行っ ていた。この通称「豊島事件」は、日本の社会科学者と環境運動家の間に廃棄自 動車の解体と処理を行う「静脈産業」への関心を引き起こし、リサイクル・廃棄 物交易研究の出発点となった。
 本論文では、この「静脈」のメタファーを手がかりに、タイ中部地方、とくに バンコク拡大首都圏における社会変化のマテリアリティにアプローチすることを 試みる。日本における静脈産業論では、「静脈」という言葉は、社会の持続に不 可欠な役割を果たしているにもかかわらず、はっきりと捉えることが困難な自動 車解体産業の流動的で複雑な性格を表している。本発表でこの言葉を用いるの は、次の二つの理由によっている。
 第一に、日本の静脈産業は直接タイに結びついており、その社会変化に大きな 役割を果たしてきた。毎年膨大な数の廃棄自動車および中古部品が、ソンワート 通、ソイチュラ、そしてランシットのシエンゴンと言われる地区に輸出されてお り、それらの地域の業者が供給する中古部品類は、農村部における機械科を支え てきたタイの地場機械工業にとっては欠かせないものとなってきた。日本の静脈 産業と同様に、これらの産業はしばしば捉えがたく、その役割は十分に評価され てこなかった。
 第二に、この静脈は、タイ農村部の変化をとおしてもうひとつの静脈と密接に 結びついている。1957年のチャオプラヤ・ダム建設とその後の灌漑網の整備は、 チャオプラヤ川下流域における水の流れを大きく改変してきた。灌漑と表裏一体 に進んだデルタの湿地の排水と洪水防御は、地場の機械工業が支えてきた農業の 機械化、モータリゼーション、生活の地上化と一体となって進行してきた。だ が、灌漑網による排水と洪水防御は一方で、一部地域における洪水の常襲化、雨 季の余剰水の処理という新たな困難をもたらしている。本論文では、機械化をも たらした静脈産業と、その結果新たな問題として浮上した洪水問題という二つの 静脈の絡み合いを手がかりに、バンコク拡大首都圏の社会変化の物質的な諸相を 捉えることを試みる。

[研究会世話人/事務局]
小林 知 (京都大学東南アジア研究所)
kobasa(at)cseas.kyoto-u.ac.jp