「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第52回<2011/10/21>
加藤敦典氏
「現代ベトナム村落の公共性: 政治人類学的考察」

第52回「東南アジアの社会と文化研究会」研究会を下記の通り開催します。オープンな研究会ですので、自由にご参加ください。

●日時

2011年10月21日(金)16:00〜18:00 (15:30 開場)

●場所

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
総合研究2号館(旧工学部4号館) 4階会議室(AA447)

●話題提供者

加藤敦典氏 (京都大学グローバルCOE「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」研究員)

●発表要旨

配布資料

 しばしば指摘されるように、アジアの住民自治組織は、国家による動員と統制の装置であると同時に、下からの対抗的公共圏が形成される場にもなっている。
 対抗的公共圏としての住民自治組織について論じるときに注意しなくてはいけないのは、この「むら」を国家が理念化するような同一性原理に基づく共同体として描くことがしばしば間違いであると同時に、この「むら」を他者に開かれた、非同一的な共同体として描くことも、ほとんどの場合、間違いだということである。ある組織の公共性を説明するために、それを支える単一の共同体の存在を仮定することが問題なのである。
 実際には、国家が統治の対象として設定し、住民がそこから対抗的公共圏を立ち上げる「むら」は、人類学者の渡邊日日が旧ソ連の地域社会における集団範疇のゆらぎについて指摘するように、多くの場合、あることがらには共同性を発揮するが、別のことがらには共同性を発揮しないものである。たとえば、私が調査している中部ベトナムの集落の場合、農地については、農業集団化時代の名残があるので、一定の共同管理をおこなうが、困窮者に対する扶助については「むら」で面倒をみるような体制になっていない。
 「むら」が対抗的公共圏を形成していると論じるためには、その「むら」の住民が国家からの要請をある程度まで相対化しつつ、さまざまな事案を「むら」で処理すべきか、また、処理するならどのように処理すべきかについて討議する力量を持っていることを示すべきである。そのためには、その「むら」にみられる討議空間の構成や、討議の作法、使用される語彙の検討をおこなうべきである。
 この報告では、ベトナム中部のハティン省の村落における、集落レベルの住民集会の討議から、とくに、貧困補助対象世帯の選定作業と、「文化」的でない困窮世帯への婦人会による支援の可否をめぐる議論を紹介し、住民たちが、家族・親族で対処すべきことがら、「むら」で対処すべきことがら、国家の福祉政策によって対応すべきことがらをめぐって、どのような論理構成で討議を展開しているのかを明らかにしていく。
 

[研究会世話人/事務局]
杉島敬志 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
takasugi(at)asafas.kyoto-u.ac.jp

備考
・事前の参加予約は必要ありません。