「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第48回 <2010/10/23>
木場紗綾氏(日本財団APIフェロー)
「マニラ・バンコクの都市貧困層の政治行動:「利用されることからの自由」という決定要因に注目して」


岡本正明氏(京都大学東南アジア研究所)
「民主化後インドネシアにおける安定化のポリティクス」

「東南アジアの社会と文化」研究会を以下のとおり開催します。今年度は、東南アジア学会関西地区月例会と共同で開催します。オープンな研究会ですので、自由にご参加ください。

 

●日時

2010年10月23日(土)13:30~17:30

●場所

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
総合研究2号館(旧・工学部 4号館)4階 会議室(AA447)

●話題提供者

木場紗綾氏 (日本財団APIフェロー)
「マニラ・バンコクの都市貧困層の政治行動:「利用されることからの自由」という決定要因に注目して」

岡本正明氏 (京都大学東南アジア研究所)
「民主化後インドネシアにおける安定化のポリティクス」

●木場紗綾氏 発表要旨

配布資料

 ここ10年あまりのフィリピンとタイにおいては、中間層の拡大にともない、中間層と貧困層のあいだの政治行動の差異が議論されてきた。両国で頻発する街頭示威行動を説明するさいにも、中間層と貧困層との意識差や行動パターンの差異が注目されることが多かった。フィリピンにおいては、1998年のエストラダ大統領の誕生、そして、同大統領を退陣に追い込んだ「エドサⅡ」と、その3ヵ月後にエストラダ支持者らが参加して流血の事態に発展した「エドサⅢ」という2つの街頭示威行動が、市民社会の分断や階層間の政治意識の差異を如実に示すものとして分析されてきた。他方、タイ政治においても、タクシン首相の退陣をめぐる「黄色」と「赤」の抗争は、「中間層」と「貧困層」の利害対立に起因するとの見方が圧倒的である。
 もちろん、貧困層がエストラダやタクシンへの忠誠心やエリートへの反発、地方有力者からの動員といった要因だけで行動するわけではないという点は指摘されている。エストラダやタクシンを支持しない貧困層も多い。しかし、そうした貧困層の多様な政治行動を説明する際にもやはり、対抗馬である地方有力者からの動員、NGOの指導者からの「教育」といった外的要因に焦点が当てられることが多い。
 これに対して本報告では、貧困層の政治的選択には、「外部者の束縛からの自由」という要素が大きく働いていることを指摘したい。そのために以下の問いを設定し、両国でのフィールドワークで得られたデータからそれらに答えようと試みる。
 ①マニラの都市貧困層は、2010年5月の大統領選候補者の差異をどのように認識したか
 ②そのうえで、彼らの投票行動を決定づける要因は何か
 ③バンコクの都市貧困層は「黄色」と「赤」の差異をどのように認識するのか
 ④そのうえで、彼らの「黄色」あるいは「赤」への支持を決定づける要因は何か
 インタビューからは、両国の都市貧困層が「利用すること」と「利用されること」、あるいは「動員すること」と「動員されること」に対して非常に鋭敏であることが明らかになる。彼らにもっとも近い存在である住民組織や自治組織、そして彼らに最も近い「リーダー」である住民リーダー、彼らに最も近い外部者であるNGOや地方首長との複雑な日々のやりとりを通じて、「より押しつけがましくないグループ」や「より締めつけの緩いリーダー」と関係を結ぶことを選択し、国政選挙での投票行動や街頭示威行動への参加を決めるための重要な判断材料としている。これが、本報告の仮説である。

●岡本正明氏 発表要旨

配布資料

 多民族国家インドネシアで民主化が始まってから12年が経った。アチェやパプアで独立運動が盛り上がり、各地で宗教紛争やエスニック紛争が吹き荒れていた97年から2000年代前半と比べると、現在のインドネシアの政治は非常に安定している。今では、世界で第3の人口を誇る民主主義国家とされ、フリーダム・ハウスが東南アジアで唯一、自由な国家であると評価するほどになっている。32年間続いたスハルト権威主義体制が崩壊したときには、「第2のユーゴスラビア化」、「破綻国家化」といった言葉が飛び交ったことを思えば、きわめて大きな変化である。そして、現在のインドネシアにおける重要な政治課題は、民主主義のさらなる実質化、そのための汚職撲滅ということになっている。
 それではなぜ、そもそもインドネシアは予想以上に政治的安定を実現することに成功したのであろうか。奇妙なことに、既存の膨大な研究は、インドネシアにおける民主化の定着は所与として、そのパラドックスを分析したり、選挙政治の分析をしたりする傾向が強く、この問いは忘れ去られてしまっている。しかし、インドネシア政治を理解する上では、この問いは決定的に重要である。そこで、本発表では、とりわけ地方レベルに焦点を当てて、分割・均衡の政治という点から安定化のポリティクスを説明していきたい。

 

東南アジアの社会と文化研究会 世話人代表・研究会事務局(2010年度)
杉島敬志 takasugi(at)asafas.kyoto-u.ac.jp

東南アジア学会関西地区例会 世話人・連絡先
片岡 樹 kataoka[at]asafas.kyoto-u.ac.jp
蓮田隆志 hsd[at]cseas.kyoto-u.ac.jp
速水洋子 yhayami[at]cseas.kyoto-u.ac.jp
渡辺一生 isseiw[at]cseas.kyoto-u.ac.jp

備考・事前の参加予約は必要ありません。