「東南アジアの社会と文化研究会」のお知らせ

第29回 <2006/11/17>
加藤眞理子 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
「サラパン仏教賛歌: 東北タイ農村における女性の宗教実践と社会変容」

 第29回定例研究会を下記の通り開催します。今回は京都大学大学院の加藤眞理子さんが、サラパン仏教賛歌について報告します。多くの方の参加をお待ちしています。研究会終了後、懇親会を行いますので、こちらにも振るってご参加ください。

配布資料

●日時

2006年11月17日(金) 16:00−18:00

●場所

京都大学東南アジア研究所 東棟2Fセミナー室

●話題提供者

加藤眞理子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

●発表要旨

 近年タイ政府主導の開発政策は、それまでの経済発展を偏重する路線から文化の発展をめざす方向へと変化した。そして地方文化復興のために、地元の「伝統」文化が選択され制度化されるようになった。東北タイでは仏教寺院で女性によって謡われる仏教賛歌が取り上げられ、村落で楽しまれていたものが地方規模のコンテスト型イベントへと舞台を変えた。
 本発表では、東北タイにおける女性の宗教実践が、90年代以降の文化政策による宗教実践の標準化やイベント化によって、どのように変化したのか、また変化しない点があるとすればそれは何かを検討する。このような検討を通して、変化主体としての女性の重要性を指摘したい。
 タイ人の仏教実践を根底から支えるものとして、出家や布施などの行為を通じて功徳を積み、その多寡によってよりよい現世や来世の地位を期待する功徳の論理がある。しかしタイ上座仏教において、男性は一生に一度出家する慣習があるのに対して、女性は制度的に出家できないことから、功徳を積む方法や動機も男性のものとは異なる。男性が僧侶や宗教的リーダーとして制度の一部になり、女性は日常的な実践を通して仏教制度を維持するという性的分業が明確に見られる。
 事例としてとりあげるサラパン仏教賛歌は、東北地方における近代タイ仏教の普及の過程で、タイ語で学ぶ俗人のための仏教教育の普及とともに伝わった。僧侶には、若い女性にサラパンを教え寺院で謡わせることによって、俗人、特に出家することがない女性に仏法を広める目的があった。そして俗人にとってサラパンを謡い聞くことは娯楽であると同時に功徳を積む行為でもあり、若い女性は謡い手、年配女性は聴衆として儀礼に参加した。つまりサラパンをめぐる実践には、性的分業が明確にある。 近年貨幣経済の浸透に伴う社会変動の中で、サラパンを伴う儀礼は一時衰退した。それは出稼ぎが常態化し儀礼の担い手が不足したり、テレビなどの導入によって娯楽的価値が落ちたことなどによる。しかし90年代以降県や郡など地元の役所や自治体が、サラパンを復興すべき美しい伝統的地方文化としてとりあげ、寺院での仏教儀礼から公衆の前で行われるイベントへと儀礼の文脈を変えた。
 その結果、サラパンとその謡い方の作法などは、教育省によって標準化されるようになりサラパンの民謡的側面だけが仏教実践から切り離されたようにみえる。しかしその担い手に目を向けてみると、これまでサラパンを聞くだけであった年配女性が、謡い手としてだけでなく、教え手としても新たな役割を担うようになった。そしてサラパンの節や歌詞などが彼女たちの手によって多様化してきていることが明らかになった。このような年配女性の役割変化はどうして起こったのか、そして彼女たちは功徳やサラパンをどのように捉えているのかを社会背景とその変容から検討する。

*この研究会は原則として奇数月の第三金曜日に開催されます。 なお、7月は夏休みとし、研究会は開催しません。研究会の案内はメールを 通じて行っています。 お知り合いのとくに学部生・院生・若手研究者に、 このメールを転送するなどして、 案内リストへの参加をお勧めいただければ幸いです。 案内リストへ参加を希望される方は、 kobe@asafas.kyoto-u.ac.jpまでご連絡下さい。


[世話人]
杉島 敬志(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
林 行夫(京大地域研究統合情報センター)
速水 洋子(京大東南アジア研究所)
伊藤 正子(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

[事務局]
王柳蘭(京大学大学院・アジアアフリカ地域研究研究科 助手)
河邉孝昭(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 院生)
吉田香世子(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 院生)
吉村千恵(京大大学院アジア・アフリカ地位研究研究科 院生)